北朝鮮が核施設の稼動と建設再開を発表 重油凍結に対抗(朝日新聞2002年12月13日)
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の外務省スポークスマンは12日、談話を発表し、米国が今月から重油の提供を中断したことを非難するとともに、94年の「米朝枠組み合意」以来凍結していた原子力発電所など核施設について「稼働と建設を即時再開する」と表明した。米国との再交渉の意思も示唆しているが、実際に核凍結が解除されれば、米朝枠組み合意の崩壊となり、朝鮮半島をめぐる国際情勢は一気に緊迫することになる。
朝鮮通信が伝えた国営朝鮮中央通信の報道によると、スポークスマンは、米朝枠組み合意で定められていた重油提供が中断されたことに抗議し、「朝鮮政府はやむを得ず、枠組み合意に従って講じていた核凍結を解除」すると表明した。
さらに、「重油提供は援助でも協力でもなく、われわれが原発を凍結するのに伴う電力損失を補償するために米国が負った義務事項である」と批判。「義務放棄により、わが国の電力生産では直ちに空白が生じるようになった」と述べ、核施設の再稼働は電力需要を満たす目的だと強調した。
米政府は、10月のケリー国務次官補の訪朝時に北朝鮮が核開発を認めたと主張し、枠組み合意違反だとしているが、スポークスマンの談話は「われわれはあえてそれについて論評する必要を感じない」と事実関係の確認は避けた。
一方でこの談話は、米朝枠組み合意を北朝鮮側から破棄するとは言及していない。「我々が核施設を再び凍結する問題は全面的に米国にかかっている」とも指摘し、米国が何らかの軟化姿勢を見せれば、核施設を再凍結する含みも残した。
北朝鮮の核開発をめぐっては、米国が主導する国際組織、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)理事会が11月、重油提供の凍結を決めるとともに、「目に見える立証可能な形で」核開発を放棄するよう求める声明を発表。国際原子力機関(IAEA)も核査察受け入れを求めるなど国際圧力が強まっていた。
枠組み合意では、(1)北朝鮮が建設中だった黒鉛減速炉型原発や関連施設を凍結・解体し、その見返りに米国が、兵器用プルトニウム抽出のしにくい軽水炉を提供する(2)軽水炉完成までは、代替エネルギーとして米国は重油を年50万トン供給することなどを決めていた。
北朝鮮の核施設再稼働に関する談話(仝文)
朝鮮通信によると、国営朝鮮中央通信が伝えた北朝鮮外務省スポークスマンの談話は次の通り
つくられた状況に対処して朝鮮民主主義人民共和国政府はやむなく朝米基本合意文(朝米枠組み合意)に基づき年間50万トンの重油提供を前提にして講じた核凍結を解除し、電力生産に必要な核施設の稼働と建設を即時再開することにした。
米国は去る11月14日、朝米基本合意文に基づき、わが国に行つてきた重油提供を中断する決定を発表したのに続き、12月からは実際に重油納入を中断した。
これで基本合意文に基づく米国の重油提供義務は言葉だけではなく、行動で完全に放棄された。
米国は、重油提供義務の放棄が、いかにもわれわれが[核開発計画を自認」しだことで、先に合意文に違反したと世論を誤導しているが、それは無駄な試みである。
米国は、われわれを[悪の枢軸」、核先制攻撃対象に指定することにより、基本合意文の精神と条項を共に徹底的に踏みにじった責任から絶対に逃れることができない。
米国が唯一、持ち出しているわれわれの「核開発計画自認」とは、去る10月初め、米国大統領特使が我が国を訪問して帰つた後、恣意(しい)的に用いた表現であって、われわれはあえてそれについて論評する必要を感じない。
朝鮮半島での核問題を平和的に解決しようとするのは、わが共和国政府の一貫した立場である。
こうしたことから、われわれは米国によって朝米基本合意文が事実上、破棄状態に至り、われわれに対する核の脅威が現実化している現在のような最悪の状況のもとでも、高度の自制と忍耐力を発揮してきた。
にもかかわらず、逆に自分の方で先に重油提供中断措置を強行しておきながら、われわれに対して検証可能な方法で核開発計画を放棄せよと圧力攻勢を強化しているのは、米国が力でわれわれを武装解除させ、われわれの体制を抹殺しようとする企図をより明白にさらけ出したものとなる。
われわれに対する重油提供は、援助でも、協力でもなく、われわれが稼働・建設中にあつた原子力発電所を凍結するのに伴う電力損失を補償するために米国が負つだ義務事項である。
米国がこうした義務を実質的に放棄することにより、わが国の電力生産では直ちに空白が生じるようになつだ。われわれが核施設を再び凍結する問題は、全面的に米国にかかつている。
北朝鮮、核査察拒否 IAEAに監視カメラ撤去求め書簡(朝日新聞2002年12月13日夕刊)
国際原子力機関(IAEA)は12日夜、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が、核施設に設置されたIAEAの監視カメラと施設の封印の撤去を求める書簡を送ってきたことを明らかにした。保障措置(核査察)協定に基づくIAEAの査察を拒否するもので、94年の米朝枠組み合意を破るばかりでなく、核不拡散体制に反する措置。核施設の凍結解除の表明に続き、北朝鮮は核問題での対応を一層エスカレートさせた。
書簡は同日、北朝鮮原子力総局の李済善(リ・ジェソン)総局長名で、ウィーンの北朝鮮大使館を通じてIAEAに手渡された。核施設の凍結解除を正式に通告し、IAEAが92年から93年にかけて実施した核査察の際に寧辺地区の核施設などに設置したカメラと封印の撤去を求めている。
現在、核施設にはIAEAから2人の査察官が常駐して、核施設の凍結を監視している。だが、査察官の施設立ち入りが北朝鮮側に制限されている現状でカメラが撤去されれば、IAEAは北朝鮮の活動を継続的に監視する手段を失い、プルトニウムの抽出など核活動を把握できなくなる。
書簡は、査察官の退去こそ求めていないが、IAEAの査察能力を制限するもので、核不拡散条約(NPT)に基づく核管理の国際的ルールに反する。IAEAの専門家は「極めて深刻な事態だ。査察体制はかつてない危機にひんしている」と指摘する。
IAEAのエルバラダイ事務局長は同日発表した声明で、カメラや封印の撤去は保障措置協定違反になると指摘。一方的に撤去しないよう北朝鮮に自制を求めた。また、米国と北朝鮮に対し、核問題解決の道筋を示した米朝枠組み合意を無効とせず、双方が平和的解決に向けた新たな対話を始めるよう要請している。エルバラダイ氏は、今回の書簡に対する対応について13日、ウィーンのIAEA本部で記者会見する予定。
寧辺の原発(朝日新聞2002年12月13日)
プルトニウム可能に すぐ実用できるか不明
北朝鮮が12日に稼働・建設の即時再開を発表した「電力生産に必要な核施設」とは、94年の米朝枠組み合意で凍結された寧辺地区などの黒鉛減速炉型原子力発竃所を指す。同原子炉は、使用済み核燃料の再処理を通じて兵器用プルトニウムをつくり出し、長崎型原爆の製造を可能とする恐れを秘めたものだ。
北朝鮮は79年に平壌北部の寧辺地区に旧ソ連から輸入した5千キロワットの実験用原子炉の建設に着工し、86年に運転を始めた。さらに寧辺で5万キロワット、寧辺の北西にある泰川で20万キロワットの大規模な原子炉の建設計画もそれぞれ86年に着工していた。原子力開発は平和目的とし、全国で00年前後には計200万キロワットの発竃を可能にすると発表していた。
これに対し米国は、寧辺の原発には送電施設がなかつたことなどから、エネルギー目的ではなく、プルトニウムによる原爆製造を目指した「核兵器開発」だと主張。反発した北朝鮮は93年にNPTから脱退を宣言した。
94年の米朝合意では、北朝鮮が黒鉛炉計画を凍結する代わりに、兵器用プルトニウムを抽出しにくい軽水炉を米国が提供することにし、建設期間中の代替エネルギーとして年間50万トンの重油の提供を約束した。米国は、韓国、日本などと朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)をつくつて軽水炉建設を始めた。寧辺の施設は、米朝合意後、国際原子力機関(IAEA)によって稼働・建設が進んでいないことがチェックされてきた。現段階ですぐに実用可能な状況にあるかは不透明な点も多い。
北朝鮮の核開発を巡る主な動き
体制維持募る危機感 イエメン沖臨検が契機(朝日新聞2002年12月13日)
イエメン沖で起きた北朝鮮のミサイル輸出船に対する米軍とスペイン軍による臨検が直接の引き金になつた。北朝鮮にとつて、この強硬手段は、侮辱であるばかりでなく、ブッシュ米政権の核・ミサイル問題についての決意が言葉だけのものでないことを実感させたはずだ。国連決議によるイラクヘの査察が進み、さらに米軍の攻撃が避けがたいものとして国際社会で受け止められる中、イラクと同様、「悪の枢軸」の一つに名指された北朝鮮が、自らの置かれた立場を極めて深刻なものと受け止めたとしておかしくはない。「このままでは……」という思いが、この「賭け」への決断に結びついたとみていい。
食糧不足とエネルギー不足が極まるなか、北朝鮮は自らの体制維持に危機意識をつのらせてきた。新たに表面化した濃縮ウランによる核開発疑惑に関しても、これを「言いがかりだ」 (10月1日の外務省談話)とする一方で、米国に対し不可侵条約の締結を要求。そこでは、「米国が核不使用を合む不可侵を法的に確約するなら、われわれも米国の安保上の懸念を解消する用意がある」とするなど、「体制維持の保証」を「核放棄」の 交換条件とする、と読み替えることのできる主張を展開してきた。
12日の核凍結解除の発表の中でも、米国の重油提供ストップについて、「われわれの体制を抹殺しようとする企図をより明確にさらけ出しだもの」と、改めて強調している。
北朝鮮としては日朝交渉を進めることで米国を牽制し、日本からの経済援助の獲得で、経済を立手直し、体制を強化していくことを狙っていた。
しかし、拉致問題で行き詰まり、交渉再開のめどすら立つていない。北朝鮮にとっては、北朝鮮の「体制抹殺」へ「日米共助」ができているというふうに見えているかもしれない。核凍結解除の発表は、「安全保障問題」を浮かび上がらせることで、局面を打開することをねらつているようにもみえる。
北朝鮮にとって米国による重油供給のストップは深刻だ。一部農場の脱穀作業も電気事情で支障をきたしている。平壌を訪れた在日朝鮮人によると、土産物の湯たんぽが奪い合うような大歓迎を受けたという。
北朝鮮の「核施設再稼働」はどの程度にまで及ぶのかは、明確ではない。しかし、米国が当分イラクにかかり切るとみられるいまを最後のチャンスとみて、賭けに出だのは間礎いない。
米、国際包囲網強める(朝日新聞2002年12月13日)
【ワシントン=坂尻信義】北朝鮮外務省の談話について、ワライシャー米大統領報道官は12日、遺憾憾だ」とした上で、
「米国は北朝鮮問題について平和的解決を模索し、関係国と協議を続ける」と語つた。また、「米国は脅しや約束違反に応じて対話をするつもりはない」とも述べ、北朝鮮が威嚇を狙ったとしても、米政府は特段、相手にしない姿勢を示した。
ブツシユ政権は、北朝鮮が多少の対決姿勢を示しても、何らかの妥協や歩み寄りを検討する公算は極めて小さい。一方で、武力行使も辞さない構えの対イラク政策とは一線を画し、北朝鮮には外交努力を駆使する姿勢を維持している。日韓両国をはじめ中国やロシアとの連携により、北朝鮮が実際に核凍結解除に踏み切らないよう、国際包囲網を一層強める。
米国の強硬姿勢でじわじわと追い詰められている北朝鮮が何か過激な球を投げてくるかも知れない、という見方は多くの北朝鮮専門家だちから出ていた。
「北朝鮮は核兵器を保有している。イラクより脅威だ」(上院情報特別委員会のグラハム委員長)といった声は高まる可能性がある。イエメン沖で臨検された北朝鮮の貨物船から、スカツド・ミサイルが見つ見つかった事件の直後だけになおさらだ。
北朝鮮が核開発計画の放棄と査察の受け入れという米国の要求から遠ざかれば遠ざかるほど、こうした声に押される形でブツシユ政権が米朝枠組み合意破棄を宣言する可能性も現実味を帯びる。
さらに北朝鮮が今回の談話通り、核凍結を解除し、94年以来凍結されていた施設を再稼働し、密封された使用済み燃料棒を取り出すなど兵器用プルトニウムの抽出に踏み切れば、米国は軍事圧力も合めた強い対抗策を検討する可能性が高い。
韓国政府が「深刻な憂慮」表明 北朝鮮の核再開で
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)外務省が核施設の稼働・建設再開を宣言したことについて、韓国政府は12日、「韓(朝鮮)半島の緊張を高めかねず、強い遺憾と深刻な憂慮を表明する」との見解を表明した。外交通商省スポークスマンが発表した。
北の宣言、太陽政策継承の盧氏に打撃…韓国大統領選(読売新聞 2002年12月13日)
【ソウル12日=白川義和】北朝鮮が12日、核凍結の解除を宣言したことで、19日投票の韓国大統領選は波乱含みの展開となった。優勢が伝えられる与党・民主党の盧武鉉候補は、北朝鮮との融和を重視する金大中政権の「太陽政策」継承を強調しているだけに、同政策の決定的な破たんによる打撃が避けられないからだ。逆に、「厳格な相互主義」を掲げ、北朝鮮の脅威削減を対北支援の条件にすべきだとしてきたハンナラ党の李会昌候補には追い風となる見通しだ。
盧氏は12日、北朝鮮の談話について「世界から孤立する結果を招くだけ」として撤回を求めるとともに、米国も危機回避に向けて協力すべきだと強調。韓国政府が北朝鮮や米国など関係国を説得し、対話を通じて問題が解決するよう努力すべきだと訴えた。
盧氏はこれまで、テレビ討論などで「核問題で北朝鮮に圧力をかけるのは危険だ」と強調。核問題解決と対北支援を連結して進めるべきだというハンナラ党の主張に対しても「南北対話の中断を招き、朝鮮半島情勢の主導権を米国に奪われかねない」と反対していた。ハンナラ党の李氏を「保守・守旧派」あるいは「冷戦思考」と批判していたのも、朝鮮半島の「冷戦」化が確実になったことで、説得力が弱まるとみられる。
一方、李氏は同日、北朝鮮に「瀬戸際戦術」と核開発の即時放棄を求めるとともに、「金大中政府は北の核問題に対するこれまでの安易な認識を捨て、対北現金支援をすぐに中断すべきだ」と述べるなど、強烈な政府批判に乗り出した。
李氏陣営は「盧氏が大統領になれば、金大中政権の失敗が継続される」とのこれまでの主張をさらに強調し、安定した危機管理能力を有権者に訴える構えだ。最近の世論調査では、盧氏が支持率で数ポイント上回っているとされ、今回の事態で「保守バネ」がどこまで働くかが大統領選の勝敗を分けるカギとなる。