検察審査会からの議決書


検察審査会議決書 の全文

平成10年東二検審審査事件(職権)第45号

 検察官裁定罪名  道路交通法違反

 議 決 年 月 日  平成11年1月27日

 議決書作成年月 日  平成11年1月27日



              議    決    書

 被 疑 者

    東京都八王子市
      運転手     M

                    昭和40年6月11日生

 不起訴処分をした検察官

    東京地方検察庁 検察官検事 安  田  博  延

 上記被疑者に対する道路交通法違反被擬事件(東京地検平成10年検第3106

92号)につき,平成10年11月26目上記検察官がした不起訴処分の当否に閑

し,当検察審査会は職権により審査を行い,次のとおり議決する。

             議 決 の 趣 旨

 本件不起訴処分は相当である。

             議 決 の 理 由(要旨)

第1 被疑事実

  被疑者Mは,平成9年11月28日午前7時50分ころ,大型貨物自

 動車を運転し.東京都世田谷区砧一丁目15番先の信号機により交通整理の行わ
 れていない交差点を進行した際,片山隼を左側車輪でれき過し,同人に全身挫
 滅の傷害を負わせて死亡させる交通事故を起こしたのに,直ちに車両の運転を停
 止して,同人を救護する等必要な措置を講ぜず,かつ,事故発生の日時場所等法
 律の定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったものである。

第2 検察官の不起訴処分の理由要旨

 被疑内容につき外形的な事実は認められるが,被疑者は「当時車体に衝撃を感
じなかったので被害者をれき過したことには気づかなかった」旨弁解していると
ころ,以下のとおり判断する。

1本件事故当時被旋車両は約11トンの砕石を積載しており,外部からの衛撃
 が車体に伝わりにくくなっていたと認められる。ダミーを用いたれき過実験等
 では,ダミーをれき過した際の衝撃は通常走行時に感じられる揺れと比して特
 段大きいとまで言えず,被疑者が人をひいたと認識し得たものとするのは無理
 がある。

2 事故の発生を知った対向車の運転手が,運転席窓から右腕を出し,被疑車両
 に向かって停止の合図をしたが,被疑者は運転席の窓から顔を出して後ろをふ
 り返ったものの,再び前を向いてそのまま進行した。被疑者がこの合図の意味
 に気づかず進行したことは,被疑者が本件事故に気づかなかったとの弁解を裏
 付けるものである。
 また,被旋車両に後続したバイクの運転手が事故の発生を知り,事故現場先
 の路上に渋滞のため停止した被旋車両に追いつき,その左脇に進み出て運転席
 の被旋者に向かって手を振って合図をしたが,被疑者はその合図自体に気づか
 ず進行している。

3 被疑者はその後も目的地に向けて通常の経路を走行しており,事故を起こし
 て逃走した状況は窺えず,積載した砕石の運搬先である世田谷区乾巻近くの同
 区桜新町二丁目27番先まで行き,路上に駐車して砕石を搬入できるまで待機
 していたところ,警察官からの聴務質問で,はじめて警察官とともに車体に付
 着した血痕等を検証するなどして事故を起こした可能性に気づいたものであり,
 水で洗い流す等の罪証隠強行為の形捗も全くなく,被疑者の弁解を覆して事故
 を起こしたことを認識していたものと認めるのは的難である。

4 鑑定事務所を経営する駒沢幹也が「被害者が被旋車両に衝突され転倒したの
 は被疑車両左前輪内側であり,被疑車両が直進を続けたなら被害者を第2抽左
 内側のタイヤでれき過していたはずだが,実際には第2抽左外側のタイヤでれ
 き過している。これは被旋者が,被害者と衝突したときに右転把したことを示
 しており,被害者と衝突したことを認識したからに他ならない」旨の所見を示
 している。しかし,警視庁交通部交通捏査課事故解析研究員によれば,「被害
 者の右鼠蹊部には被疑車両前輪のタイヤトレッドの縦溝の一部が斜めに横断す
 る形で出血班となって印象されている」のであり,被疑車両左前輪も被害者を
 れき過しているのはあきらかであるから,駒沢の所見は,被害者が萄突,転倒
  した位置が被旋車両左前輪内側であるという前提事実において崩れるのであっ
 て,同所見に基づいて被疑者に披害者との衝突の認識があったと認めがたい。

 5 他に被撰者の弁解を壱すに足る証拠はなく,犯罪の嫌疑が不十分であると言
  わざるを得ない。

第3 検察審査会の判断
  当審査会が職権により審査した結果,事故発生の認識の有無については以下の
 とおりである。

1 被擬者は事故直後の対向車からのパッシング等の合図には気づいたものの,
  事故発生を知らせる合図であることまで了解したとは断定できない。
   また.本件車両のようなダンプカーは,サスペンションの構造上外部から衝
  撃が加わっても運転席へ伝わりにくいという特性があると思われる。実況見分
 調書の写真によれば,被疑車両のミラーには死角があり,運転席の高さなどを
 考え合わせれば,被疑車両の左方からの目撃者の合図,および振り返った際路
  上に転倒している被害者の身体が見えたとまでは言えない。

 2 外形的事情から判断する限りでは,披疑者は,渋滞のなかを急ぐ様子もなく
  目的地へ向かって走行しており,目撃者らの供述からも,事故発生後被疑者に
  特段変わった様子は見受けられなかったように思われるのであって,これらか
  ら見ると,被疑者が事故発生後逃走の意思で走行していたものとは認められな
  い。
 また,その後の行動を見ても,コンビニエンス・ストアに立ち寄って朝食を
 購入するなどしているほか,タイヤに付着した被害者血液も,警察官と共に検
 証するまで,自ら確認していないことか窟われ,洗い流すなどの罪証隠滅行為
 も行われていない。さらに,事故後の被疑者とその勤務する会社社長との携帯
 電話の会話内容からも,事故を認識していたことを競わせる発言は見られない。

3 結論
 本来自動車は万全の注意を払って運転されるべきものであるが,以上の点に
 照らすと,本件については被疑者に事故発生の認識があったものとは考えにく
 く,事故によって幼い生命を失った被害者の家族の心情は察するところである
 が,検察官の不起訴処分の裁定は相当である。
よって,上記趣旨のとおり議決する。

      東京第二検察審査会



平成10年東こ検審審査事件(職権)第36号
 検察官 裁定 罪名  業務上過失致死,道路交通法違反
 議 決 年 月 日  平成11年1月27日
 議決書作成年月日   平成11年1月27日



             議    決    書

 被 疑 者

   東京都八王子市
      運転手     M
                    昭和40年6月11日生

 不起訴処分をした検察官

   東京地方検察庁 検察官事務取扱副検事 清  藤  重  信
 上記被旋者に対する業務上過失致死,道路交通法違反被疑事件(東京地検平成
9年検第30556号,同年検第315441号)につき,平成9年12月18日上記検察官がし
た不起訴処分の当否に関し,当検察審査会は職権により審査を行い,次のとおり
議決する。

             議 決 の 趣 旨
1業務上過失致死については.本件審査を打ち切る。

2 道路交通法違反についての本件不起訴処分は相当である。

             議 決 の 理 由(要旨)

 第1 被旋事実
    被疑者Mは
  1平成9年11月28日午前7時50分ころ,業務として,大型貨物自動
   車を運転し,東京都世印谷区砧一丁目15番付近の信号機により交通整理
   の行われていない交差点を狛江方面から渋谷方面に向かい直進して,同交
   差点直進先出口に設けられていた横断歩道上に一時停止後,発進・進行す
  るに当たり,前方左右を注視し,進路の安全を確認して発進・進行すべき
  業務上の注意義務があるのにこれを怠り,無線交信に気をとられ,横断者
  の有無及び動静を確認しないまま漫然発進した過失により,折から右方か
   ら左方に向かい横断中の歩行者片山隼(当時8年)に気づかず,自車前部
  を同人に衝突・転倒させて左側車輪でれき過し,よって,同日午前8時3
   2分頃,同区大蔵こ丁目10番1号国立大蔵病院において,同人を頭蓋骨
   骨折等により死亡させ(業務上過失致死)
  2 前日時場所において,前記のとおり,片山隼を左側車輪でれき過し,同
  人に全身挫滅の傷害を負わせて死亡させる交通事故を起こしたのに,直ち
  に車両の運転を停止して,同人を救護する等必要な措置を講ぜず,かつ,
  事故発生の日時場所等法律の定める事項を,直ちに最寄りの警案署の響察
   宮に報告しなかった(道路交通法違反)
  ものである。

第2 道路交通法違反被旋事実について検察官の不起訴処分の理由要旨
 被疑内容につき外形的な事実は認められるが,被疑者は犯意を否認している
 ところ,以下のとおり判断する。
 1警察官がダミーを使用してれき過実験をした結果,被疑車両は約11ト
   ンの砕石を積載しており,れき過の衝撃を認定することが困難であった。
  2 目撃者の供述によれば,被疑車両は事故の前後を通じ,変化なくゆっく
  り走行しており,被旋者の弁解を葎して他に犯意を認めるに足る証拠が十
   分でないので,嫌疑不十分と考えた。

第3 検察審査会の判断

1本件被疑者に対するこつの被疑事実は,東京地方検察庁において平成10
 年9月8日付けで再起されて再投査が行われ,このうち業務上過失致死被疑
 事実については同年11月26臼に東京地方裁判所に公訴を提起した旨の回
 答があったので,同被疑事実に対する当審査会の審査を打ち切る。

2 再起後も不起訴処分とされた道路交通法違反被疑事実について当審査会は
峨権により審査を行った。被疑者の事故発生の認識の有無についての判断は
 以下のとおりである。

1 被疑者は事故直後の対向車からのパッシング等の合図には気づいたもの
 の・事故発生を知らせる合図であることまで了解したとは断定できない。
  また・本件車両のようなダンプカーは,サスペンションの構造上外部か
 ら衝撃が加わっても運転席へ伝わりにくいという特性があると思われる。
 実況見分調書の写真によれば・被疑車両のミラーには死角があり,運転席
 の高さなどを考え合わせれば,被旋車両の左方からの目撃者の合図,およ
 び振り返った際路上に転倒している被害者の身体が見えたとまでは言えな
 い。
2 外形的事情から判断する限りでは,被疑者は,渋滞のなかを急ぐ様子も
 なく目的地へ向かって走行しており,目撃者らの供述からも,事故発生後
 被疑者に特段変わった様子は見受けられなかったように思われるのであっ
 て・これらから見ると,被疑者が事故発生後逃走の意思で走行していたも
 のとは認められない。
  また・その後の行動を見ても,コンビニエンス・ストアに立ち寄って勃
 食を購入するなどしているはか,タイヤに付着した被害者血液も,警察官
 と共に検証するまで,自ら確認していないことが窺われ,洗い流すなどの
 罪証隠滅行為も行われていない。さらに,事故後の被疑者とその勤務する
 会社社長との携帯電話の会話内容からも,事故を認識していたことを窺わ
 せる発言は見られない。


ウ 結論
  本来自動車は万全の注意を払って運転されるべきものであるが,以上の
 点に府らすと,本件については被疑者に事故発生の認識があったものとは
 考えにくく・事故によって幼い生命を失った被害者の家族の心情は察する
 ところであるか・検察官の不起訴処分の裁定は相当である。
よって・上記趣旨のとおり議決する。
     東京第二検察審査会